九月堂
AFURIのセントラルキッチンで統括として5年間スープの開発に明け暮れる!
自らをスープ職人と呼ぶ!誰よりもスープにこだわる頭脳派ラーメン店主!!
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元々、自分は関西出身なんでうどん文化だったから、基本ラーメンは喰わなかったんです。基本的には、うどんってどこで喰っても安いんですよね。駅前で喰おうが、そこそこのお店構えてようが、家で作って喰おうが、そんなに違わないじゃないですか!?でも大学の時に東京に来てみると、「ラーメン!ラーメン!」ってみんなが言ってるのを見て、「なんでラーメンってこんなに同じ麺類なのに人気あるんだろうな~?」ってすごくラーメンに興味が出てきたんです。
ラーメンって食べた時に全然濃度が違ったり、動物系の入りが違うとか、魚の使い方が違ったりとか、重厚感が違うとかいろいろある。それに麺へのこだわりが違うという部分もあるし、トッピングもそうですよね。スープや麺に合わせてそれぞれ個性が出すことができる。でもうどんは、いろんな地名が付いたうどんがあるけど、ある程度紋切り型でいけると思うんですよ。例えば、讃岐うどんって言ったら讃岐、稲庭うどんていえば稲庭って感じなんですよね。
でも、例えば同じ醤油ラーメンっていっても、店によって全く違う醤油ラーメンが出てくるし、濃度から印象も全く違うものが出て来るのがラーメン!昔だったら、醤油ラーメンって言われると味もイメージも想像がついたと思うんですよ。でも、今はそうじゃないですしね。「こんなに濃い醤油ラーメンはなかっただろ?」って感じで。
とんこつにしても、博多のサラサラしたとんこつから、今大阪でいっぱいある濃度の高いドロっとしたとんこつラーメンまである。だから、もし食べ物屋さんをやる時に、ラーメンなら「自分の個性が出せるんじゃないか!」と思ってたんです。しかも、今ほど高くはないけど、550円から680円ぐらいでそこそこのラーメンは喰える時代だったんで、そのラーメンを食べて「やっぱりラーメンって可能性あるな!」って思ったんですよ。
それで、「とりあえずラーメン屋で働いてみよう!」と思って、その当時家系のラーメンが好きだったので26歳の時にラーメン屋で働き始めたんです。とんこつと醤油の入り具合が分かりやすいので、基本的にはウケやすいっていうのもありました。
家系ラーメンをいろいろと食べ歩いてるうちに、ラーメンブームが来たんですよ。ダブルスープとか、無化調のラーメンだのなんだのってね。その時に、初めて天空落としで有名な「中村屋」の中村栄利さんのお店に行ってラーメンを食べたんですが、「濃度の濃さだけで旨味を出すわけじゃないんだな~」って衝撃を受けたんです。
要するに、トロミが出るぐらい濃度が濃ければ、それに比例して旨味も濃いというわけではない。サラっとしてても旨味の濃いラーメンは出せるんだってことを知ったんです。ということは、「必ずしも旨味を出すためには、化学調味料を入れる必要はないのでは?」っていう疑問が生まれたんですよ。
そういえば、「うちの親がうどんを作ってるときに化学調味料って入ってたっけ?」「家で作ってる料理に化学調味料が入ってる飯って喰ってたっけ?」って2年ほど働いて気付いたんですよ。そんだけ「中村屋」さんのラーメンを食べた時に想像以上の味だったんです。
自分が思うに家系は、うどんで言う紋切り型で、どこに行っても同じ家系を食べれるんですよね。だから家系のラーメン屋で働いていたら、「たぶん自分で作るラーメンもそんな感じになるんだろうな」って思っちゃったんですよ。
もちろん家系のラーメンは好きだけど、濃いモノから薄いモノまで、あらゆるラーメンの中から自分の個性のあるラーメンを選択して作りたかったんです。そう思ってる時に、「中村屋」さんの系列の「ZUND-BAR」の支店が東京にできたって聞いたんです。それが「AFURI」さんなんですけど、一番最初のお店ができた時に、食べに行ってやっぱりこのラーメンだなって思いましたよ。
だから、「AFURI」でアルバイトを始めて、そこから店長をやらせてもらいました。そして、店長を1年間やったら「AFURI」の味を作っている「ZUND-BAR」に行きたいと思って、直談判したんです。そしたら、基本的に、「ZUND-BAR」は修行の人間は採らないって言われて・・・ でもまだ「AFURI」も立ち上げたばっかで、まだまだ数字も見込めない感じだったので、見込める状態にして、引き継げるスタッフがいるのであれば、仕込みをやってる本厚木にあるセントラルキッチンの「ZUND-BAR」に行っていいよ!って言ってもらえたんですよ。 でも、「ZUND-BAR」にいくまでに整えないといけないことが多かったし、売上げもそれなりに見合う数字にして、引き継げる人間を育てなければならなかったので、「ZUND-BAR」にいくまでに1年ちょっとかかりましたけどね。
その時に、中村屋の店主の実兄でもある社長の中村比呂人さんに「ZUND-BAR」に行かせて下さい!「ZUND-BAR」に行くか、辞めるかしか自分には選択肢は無い!と迫っちゃいましたね。すると、「修行の前に見学だけでもいいし、違うなって思ったら辞めてもいいし、「AFURI」に戻ってきてもいいし」と言われて、28歳の時に本厚木の本店「ZUND-BAR」で働き始めたんです。
最初は本厚木に住む気でいたんですけど、僕は考えたりできるプライベートな時間がないとダメなタイプなんで通いを選択しましたね。だから、家から本厚木まで毎日車で2時間かけて通って、スープを仕込んで終わったら帰るっていう生活を5年ほど続けました。そこで、サラッとしてるけど旨味が強く、濃度が無くても美味しく感じられるようなラーメンっていうものや、いろんな変わった限定ラーメンとかもやらせてもらったり、いろいろと学ばせてもらいましたね。
そして33歳の時に独立したんです。資金に関しては、はじめから親を口説いていましたね。うちの親も甘いところがあって、自分は2人兄弟の次男坊なんで、「家買うんだったら頭金ぐらいは用意してやる」て言ってたのを取り崩して、お店を作るために一発勝負するということでその資金はお店作る方にあてました。もちろん自分が修行してる間に貯めたお金も合わせて開業資金にしたんですけどね。
物件は、言い方が悪く聞こえるかもしれませんが、最終的に消去法ですね。いっぱい物件は見たんですが、ここは昼間は人が少な過ぎるとか、ここは夜のイメージが強すぎるとか、あまりにも狭い物件とかで、なかなか自分が思う物件がなかったんです。物件の内覧は1年掛けて、50件じゃきかないぐらい見ました。1日4~5件見たときもありましたよ。
やっぱり、今までスープ作りに専念してたし、社長に守られてぬくぬくしてた部分もあるし、不動産の話は初めてだったので、交渉の仕方とかも全然分からなかったことを覚えています。今までは業者さんと仕入れの話がほとんどだったし、店舗の話などしたことも無かったので物件選びは本当に大変でしたよ。
ここの物件を紹介してくれた不動産屋さんは、ここの場所は何時がピークか、何人くらいの人が通るのか、何時から何時が人がいる時間帯か、これぐらい離れたところにオフィス街があるなどの情報を出してくれたので、その情報をもとに自分で実際にそこに行ってみて、自分とその情報に相違がないかを調査をしていきました。
やっぱり不動産屋さんも、売るために仕事してるから良いことは言うけど、マイナス面はできる限り言わないと思うので、そこは自分で調査するのが重要なんですよね。
お金があれば、納得するまで物件選びもできたとは思いますけど、ラーメンはもう出来るのに、何も決まってないし収入もない状態だったので、物件を決めないといつまでも始まんないと思い最終決断をしてここの物件にしました。
修業先を辞めてから3ヶ月ぐらいでしたかね。辞めると決まってからは、仕込みを後輩に教えて後輩をしっかり育てるということをしていたので、中抜けも出来る状態で、自分の時間も作ることができたからみんなには感謝してますよ。
ここの「九月堂」のスープは無化調のスープです。考え方としては「化学調味料は最後に頼れるものかな~」って思うんですよ。自分が思うに、家系は基本的に化学調味料が味の核なんです。だから、化学調味料がないとラーメンが成立しないという状態というかね。
でも、本来であれば、化学調味料は補助的な役割であって、塩度の調整とか濃度がどうしても足りない時に足すものだと思うんですよ。
だから、自分の店では初めから化学調味料は組み込まないと決めていました。とにかく、タレはシンプルにスープに対して綺麗に塩度が入るように作っています。歴史的にラーメンのスープは、もともと塩の粒を入れて味を作っていたんですけど、塩の粒だと溶ける、溶けないというのがあってあまりにも味にバラツキが出るから液体状に変わっていったんです。
だから、スープの旨味に塩度を足すという役割として、塩ダレや醤油ダレができたという訳なんです。そこから、さらにスープの安定を図るためにタレ自体にも旨味を入れ始めて、それが今のラーメン屋さんのタレというものになったんです。つまり、もともとタレっていうのは塩水だったんですよね。そう考えてみるとシンプルでいいんじゃないかと思いますよ。
だから、スープは自然の原料を使ってるので日々ブレるけど、それを調整するのがラーメン屋の仕事だと思っています。自分は麺職人じゃないし、あくまでも自分はスープ職人なんでね。笑
麺は「三河屋製麺」さんの麺を使っています。「三河屋製麺」さんは細麺が得意なんで、「AFURI」の時から宮内社長とは知らない仲ではなかったし、スープを作る段階から「三河屋製麺」さんの工場にスープを持って行って、スープに合う麺を試作してもらっていたので、自分の中では絶対的に信頼できる製麺屋さんなんですよ。
麺の太さから粉の味まで選択肢の幅が広いし、自分のスープに合う麺を探せるし、自分が気に入った麺があったら、最終的にスープを微調整して合わせたらいいと思っていましたしね。だって、それが仕事なんで。笑
スープはとんこつ、鶏ガラ、背脂、もみじをブレンドして炊いています。ポイントはやっぱり味の重層性!入れるタイミングも自分の中ではこだわりがあって、初めにベースを作るのはゲンコツなんですけど、基本的に最終的にできるのは鶏白湯なんですよ。
動物系スープも二段仕込みで一回仕込んだ後に、ゲンコツを全部抜いちゃって、液体だけになったところに、鶏ガラを突っ込んでとろ味を出して、動物系のダブルスープみたいな感じですかね。それがどんぶりに入った時に重層性を演出するんですよ。
動物系のスープに関してはそこまでブレないし、動物系ばっかり入れるとどうしてもモッタリするので、そこにタマネギ、干し椎茸の汁、黒大豆の煮汁を入れて、隙間をすっきりさせて、飽きが来ないスープに仕上げていますね。動物系のスープの濃度が上がれば上がるほど、真ん中が抜けた感じになってしまうというか、脂っぽいけどお湯っぽく人間は感じてしまうんでね。
麺は中細麺ですかね。麺自体の粉の味が好きで、北海道産の国産小麦を使っています。麺の溶け出しはどうしてもしょうがない部分があるんです。だから、自分的には「溶け出しも旨いが正解じゃないかな」と思うんです。それが美味しくないと濁るっていう表現になるんじゃないですかね~。 溶け出しは、当然のものであってスープを吸って浸透圧で中の水分が出てきてしまうものなのでしょうがないですよ。
タレはとにかくシンプルに仕上げています。だって、スープがブレたときに原因を探す時に「もしかしてこのブレはタレかも?」って思ったらもう終わりだと思っていますからね。だから、タレはある程度しっかり確定した塩度と旨味も最小限に留めて、どんぶりに入れて合わせた時に引き立つ旨味さえ入っていればいいと思うんですよ。
醤油は、自分が兵庫県出身なんで「ヒガシマル醤油」さんの薄口醤油を使ってます。5時間弱ぐらい醤油塩っていうのが分離してできるぐらいまで煮詰めるんですが、醤油と旨味だけを煮詰めるって感じです。
この「九月堂」は、女性のお客様が多くて男女の比率で言うと半々くらいですかね。でも、自分的にはラーメンはおじさんの食べ物なので、おじさんに美味しいと言ってもらえないとラーメン屋はやっていけないと思うんですよね。ラーメンの歴史を考えてみれば、あくまでサラリーマンのおじさんに、美味いし、早いし、この値段だったら喰い続けられると思ってもらえないとラーメン屋はやっていけないと思います。
昼間の慌ただしい時間は、サラリーマンの方が多いですけど、女性のお客様も1名様からグループで来てくださったりしてますね。ピークの11時から13時が男性のお客様が多くて、そこからは女性のお客様の方が多い感じですかね。1日150ぐらいでのお客様なので、経営的にはギリギリですよ。渋谷なんでね・・・。
リピート率は、結構いい方ですかね。常連さんがまた新しいお客さんを連れてきてくださるって感じです。
店の雰囲気作りとか接客、マネージメントに関しては、自分はスープ職人なんでラーメンが一番って言いたいところなんですが・・・従業員やかみさんの意見とかお客さんの雰囲気を感じ取って思うことは、やっぱり味と同じぐらいクリーンネスと接客にも重きを置いてる人が多いんだ!ということです。
もう今は、ご飯を食べる場所ってただ旨けりゃいいっていう時代じゃなくなったんですよね。やっぱり、その店に行きたいと思われなかったら終わりなんです。だから味だけじゃなくて掃除もしっかりして、お客様の反応もしっかり見て、お客様が何を求めているかを感じ取る必要があるんです。
それに、一つだけ何かいい部分が突出してるだけじゃダメで、全てに力を入れるってことも重要だと思いますよね。