さりげないパフォーマンスが繁盛ラーメン店には欠かせない

いまや全国展開をして、誰もが知っている博多ラーメン店の話です。

 

 もともと、豚骨味の博多ラーメンは魚市場の関係者が即座に食べることができるということで、一般受けするものではありませんでした。店も汚く、魚市場の関係者が気兼ねなく座ることができるように作られていました。

 時間に追われる市場の関係者が、瞬間に腹を満たせるものとして存在していたからです。さらには、一杯で満足できなければ、追加を頼むことで満腹感を味わうものでした。

 ところが、徐々に、魚市場で働くアルバイト学生の口コミで豚骨ラーメンのうまさが口コミで広がり、安い、早い、うまい、の三拍子が揃ったのです。

 そして、博多の名物、屋台での締めの一杯にまで発展していったのです。

 

 この博多の豚骨ラーメンを一般の人や女性も気兼ねなく食べることができるようにとしたのが、現在の全国展開した店です。

 このお店が開店した頃、客は誰もいませんでした。30人は軽く入ることができる店でありながら、客は誰もいませんでした。たまたま、昼食時、店の前を通ったのが運のつきで入ったのですが、まず、その値段が市場でのラーメンに比べて高いのです。市場のラーメンの2杯分の値段はしていたと思います。

 まさか、断ることも出来ずに注文して食べたのですが、「うまい」と思いました。

 粗雑な、市場関係者を相手にした味ではないのです。

 非常に繊細な、マイルドなスープの仕上がりでした。独特の豚骨くささも抑えてありました。

 ただ、従来の、安い、早い、うまい、というイメージとは異なっていました。このため、お客がいないのです。本当にガランとしていました。

 

 おいしさに2度、3度と足を運びましたが、いつ、行っても、客は誰もいませんでした。

 しかし、店のオヤジは賑やかに働いています。

 アルバイトのお兄ちゃんとも威勢よく声を掛け合っています。

 そんなに刻んで大丈夫なのかと思うほど、ネギを刻むまな板の音が軽快に店内に響き渡ります。

 時に、大きな寸胴鍋からもうもうと湯気が立ち上り、蓋を閉める豪快な金属音が響きます。

 いつ行っても、店に誰もいないにも関わらず、賑やかにまな板の音、寸胴鍋の湯気、音が響き渡っていました。

 

 そのうち、この店は徐々に評判となり、しばらくすると、昼食時にはお客で席が埋められるようになりました。

 そのうち、行列ができる店となり、支店もできるようになりました。

 

 後年、このラーメン店主と親しい方に話を聞くことができましたが、開店当初の景気の良いまな板の音、寸胴鍋の湯気、音はすべてパフォーマンスだったのです。

 ラーメン店は元気であること、景気よく雰囲気を作ることで、繁盛店へと変化するのだと。

 このことは、勝海舟の『氷川清話』にも、似たような話が出ていますが、現代にも通用する極意ではないかと思います。